アーバスキュラー菌根菌-宿主植物の共生成立メカニズムならびに共生系における物質代謝・制御メカニズムに関する分子的基盤の解明を目標として本研究を行い、次の成果を得た。まず「アーバスキュラー菌根菌樹枝状体ESTライブラリーの構築」である。樹枝状体は菌根菌と植物との養分交換の場であるが、根から樹枝状体を短時間で効率良く単離する手法がなかったため、樹枝状体で営まれている代謝反応やその制御に関する知見は極めて少なかった。本研究では、形態的に著しく発達した樹枝状体が多数形成される、ミヤコグサ(Lotus japonicus)の菌根菌樹枝状体超着生変異体Ljsym78-2を用い、この樹枝状体を根から迅速で簡便に単離できる方法を確立した。さらに、その方法を用いてGlomus intraradicesを感染させた根から樹枝状体画分を単離し、RNAを抽出して樹枝状体ESTライブラリーを構築した。もう1つは「菌根菌の共生に伴うミヤコグサのイソフラボノイド合成系の応答解析」である。ミヤコグサを用い、菌根菌の感染に伴う縮合型タンニンの根、葉、茎における生成量の変化を調べた。野生株Gifuの根では、菌根菌が感染すると縮合型タンニンが減少した。タンニンやイソフラボノイドは抗菌作用を有することから、この生合成を抑制することが菌根菌共生の成立に必須だと考えられた。一方、共生のブロックされている変異体Ljsym72の根では縮合型タンニンの減少が見られなかった。この変異体は菌根菌を認識することができないため、根でのイソフラボノイド生合成の抑制が起こらず、抗菌作用が働いて感染が進まなかったと考えられる。Gifuの葉および茎においては、根での菌根菌感染により縮合型タンニンが増加した。根における菌根菌感染に応答した地上部でのイソフラボノイド合成の促進は、病原菌感染に対する全身的誘導抵抗性に類似しており興味深い。
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