研究概要 |
植物の激粉生合成における唯一のグルコース供与体はADP-グルコースである.ADP-glucose pyrophosphorylase(AGPase)はグルコース-1-リン酸とATPからADP-グルコースを合成する酵素である.植物のAGPaseは異なる遺伝子にコードされる大小2つのサブユニットが2つずつ会合した4量体であり,3-phosphoglycerate(3-PGA)およびPiによってアロステリックに調節される.本課題では,同化澱粉生合成ならびに生育に対するAGPaseのアロステリック調節の役割を明らかにすることを目的とした.また,各遺伝子の発現機構についても検討した. (1)アロステリック感受性を減少させた変異AGPase遺伝子の導入:葉におけるAGPase活性を欠損したシロイヌナズナ変異体植物に、自身のプロモーターを利用して変異AGPase遺伝子を導入した。得られた形質転換植物の葉におけるAGPase活性は、変異植物の10倍以上、野生株の1.5倍以上に増加した。形質転換植物葉の最大同化澱粉量は,野生株の1.3倍に増加し,また,澱粉代謝回転は野生株の1.8倍に増加した.さらに,形質転換植物は葉の乾燥重量ならびに葉の大きさも野生株に比べ増加し,最終的な種子の収量も野生株の1.2倍以上になった.これらのことから,AGPaseのアロステリック調節は,同化澱粉合成量を支配しているだけでなく,代謝回転の増加をもたらし,最終的に植物の生育や生産性に強く影響することが示唆された. (2)AGPase遺伝子プロモーター特性の解析:シロイヌナズナにおけるAGPase大サブユニット遺伝子(ApL1)と小サブユニット遺伝子(ApS1)の発現特性を調べるために,両遺伝子のプロモーター領域を単離し,レポーター遺伝子[β-glucuronidase(GUS)]を連結したコンストラクトを作成した.これをシロイヌナズナ植物に導入し、得られた形質転換植物葉におけるGUS染色像を観察した.両遺伝子ともに葉肉細胞全体にわたる染色が観察された.また,ApL1遺伝子の転写開始点より上流310bp以内に構成的発現に関する因子が含まれることが明らかとなった.
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