研究概要 |
酵母のタンパク質分泌装置の構成成分の中で、筆者らが1991年に報告したUso1pは約700アミノ酸のHead domainと1,000アミノ酸あまりのcoiled-coil構造の尾部からなり、分泌過程の中で小胞体から出芽した分泌小胞がゴルジ体膜に係留される(tethering)の段階に関与していることが明らかとなりつつある。 筆者らは、高いタンパク質分泌能を有するAspergillus属糸状菌の中で、A. nidulansの染色体DNAからUSO1相同遺伝子usoAを単離解析した。予想されるUsoAタンパク質は1,103アミノ酸からなり、酵母Uso1pおよび動物細胞の相同タンパク質p115とは25-30%相同であり、Head domainとcoiled-coil領域からなる共通の構造を有していることを明らかにした。A. nidulans染色体上のusoA遺伝子のプロモーターを培地のC源により制御可能なalcAプロモーターと置換した、usoA遺伝子条件発現株を作製し、usoA遺伝子の機能について解析を行った。usoA発現抑制条件下ではA. nidulansの生育が停止し、液胞タンパク質CpyAの小胞体型前駆体の蓄積を観察したことから、UsoAがA. nidulans細胞の生育に必須であり、細胞内タンパク質輸送に関与していることを明らかにした。さらに、usoA発現抑制条件下では、分生子出芽異常、菌糸体の膨潤、不均一な核分配・隔壁形成など、細胞極性の異常を示す数々の形質を見いだした。細胞学的解析により、細胞骨格に関連するアクチン繊維およびキチンの局在の異常も観察し、UsoAが細胞極性の形成維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。真核微生物の中では複雑な形態を有する糸状菌のUsoAタンパク質に着目することにより、タンパク質の細胞内輸送の方向性を決定する細胞極性について解析する新規のシステムを構築して成果をあげた。
|