ヒト肺がん腫A549細胞において、アセトキシシクロヘキシミド(E-73)はTNFによる転写因子NF-kB活性化のシグナル伝達の初期過程に作用する。本研究課題ではE-73がNF-κB活性化に必須のアダプタータンパク質であるTRADD、RIP、TRAF2の発現量には影響せず、細胞表面のTNFレセプター1の発現量を選択的に減少させることを見出した。構造類縁体であるシクロヘキシミドもTNFレセプター1のダウンレギュレーションを誘導したが、E-73はシクロヘキシミドに比較して100倍程度強い活性を示した。E-73はP38MAPキナーゼを活性化させ、p38MAPキナーゼに対する選択的阻害剤SB203580によって、E-73によるTNFレセプター1のダウンレギュレーションが抑制された。以上の結果から、E-73はp38MAPキナーゼの活性化を介してTNFレセプター1の細胞外への放出あるいは細胞内への取り込みを誘導していることが示唆された。 さまざまなヒトがん細胞に対するE-73の抗腫瘍活性を検討したところ、HL-60細胞やJurkat T細胞のような血球系細胞に選択的なアポトーシス誘導活性が観察された。E-73はシクロヘキシミドに比較して10倍程度強いタンパク質合成阻害活性を有していたが、アポトーシス誘導活性はシクロヘキシミドに比較して100倍以上強く、タンパク質合成阻害以外の細胞死誘導機構が関与していることが示唆された。E-73はカスパーゼ3ならびにカスパーゼ9を活性化し、そのアポトーシス誘導活性はカスパーゼ阻害剤z-VAD-fmkで顕著に阻害された。さらに、E-73はシトクロームCの放出を誘導し、E-73のアポトーシス誘導活性はBcl-x_Lによって阻害された。以上の結果から、E-73はミトコンドリアからのシトクロームCの放出を介してアポトーシスを誘導していることが明らかとなった。
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