これまで、南極産好冷細菌が産生するサチライシン型プロテアーゼの構造と機能について調べた結果、南極酵素は常温酵素と比較して低温で高い活性を示し、活性部位周辺にあるループ構造のゆらぎが、低温活性に必要な活性部位の動きを生じている可能性が得られた。中温酵素サチライシンCarlsbergのβ8-9ストランド間は、PTN配列を有し安定なβターン構造をとっている。そこで、この領域の柔軟性と活性や熱安定性の関係を調べるために、Pro209をGlyに置換した変異体(GTN変異体)、低温サチライシンS41と同じFDG配列に置換した変異体(FDG変異体)および低温酵素Fpaのループ(NAGSSTPSS)に置換した変異体(Fpaループ変異体)を作成した。すべての変異体のsuccinyl-AAPF-p-nitroanilideに対する活性のK_mとK_<cat>は、25℃で野生型とほとんど変わらず、至適温度はGTNおよびFDG変異体では野生型と同じ53℃、Fpaループ変異体では43℃であった。カゼイン基質に対しても、変異体の比活性は50℃以下で野生型と変わらず、至適温度はGTN変異体とFDG変異体では野生型と同じ65℃であったが、Fpaループ変異体では15℃低かった。10mCaCl_2存在下、野生型は60℃まで安定であり、GTNおよびFDG変異体は55℃、Fpaループ変異体では45℃まで安定であった。65℃における変性の速度定数は、野生型と比べてGTN変異体で15倍高く、FDG変異体で9倍、Fpaループ変異体では180倍高かった。さらに、未変性状態から変性状態へ移行する際の活性化のエンタルピーとエントロピーの変異体と野生型の差より、未変性状態は、野生型、FDG変異体、GTN変異体、Fpaループ変異体の順に大きなエンタルピーとエントロピーを有していることが推定された。以上の結果より、サチライシンのβ8-9ストランド間領域の柔軟性の増加は活性に影響しないが、未変性状態の構造をよりゆらいだものとし、熱安定性を低下させるものと推定された。
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