研究概要 |
ラン藻Synechococcus PCC 7942由来の二機能性酵素であるフルクトース-1,6-/セドヘプツロース-1,7-ビスボスファターゼ(FBP/SBPase)につき酵素学および構造生物学の観点から研究を行った。その結果、本酵素は、片方の基質のみが存在する場合より両基質が同時に存在する方が活性が高くなるという、異種基質問での相乗的なアロステリック効果を有することを見出した。また、X線結晶構造解析による立体構造の解明を行った。非拮抗型阻害作用を有するAMPとの複合体にすることにより良質な結晶として得た。位相はSe原子を用いた単波長異常分散法により決定した。回折X線測定は大型放射光施設KEK-PFにおいて行い、分解能2.1Aまでの反射が観測できたpeak波長(0.9792A)のデータを用いて位相の決定を行った。直接法SnBにより52個のSe原子の座標を決定した。得られた電子密度に基づいて構造の構築を行い、構造修正と精密化を繰り返しR=22.9%の立体構造を決定した。 本構造は、SBPase活性をもつ酵素として初めての立体構造である。本結晶の非対称単位はホモ四量体で構成されていた。この四量体構造は、多数の構造報告がある解糖・糖新生系由来のFBPaseの四量体構造とは大きく異なるものであった。また、このことに対応するように、本酵素では、非拮抗型阻害作用を示すAMPは2つのサブユニット間に挟まれた位置で結合するという新規な結合様式を有しており、異なったアロステリック機構を持つことが示唆された。サブユニットは、α-ヘリックスとβ-シートが交互に積み重なったαβαβα構造をもっており、その配列様式は従来のFBPaseと同一であったが、N末側のβ-シートにC末側の残基が新たに組み込まれており、タンパク質のフォールディングの観点からも興味深い相違点が見出された。また、サブユニットは二つのドメインから形成されているが、そのドメイン間に、基質結合が可能な大きさで複数の酸性アミノ酸に取り囲まれている窪みを見出し、その部分が基質結合部位であると特定した。
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