ナス科植物の生産する誘導性抗菌物質フィトアレキシン類は共通にセスキテルペノイド化合物群であるが、その骨格はエレモフィラン型、オイデスマン型、スピロベチバン型、ゲルマクラン型といくつかの異なった型を持ち、またこれらはいろいろな酸化状態を取るので、生合成上での骨格変化とともに植物P450酵素がどのように関与するか興味の持たれるところである。ある種のタバコ培養細胞からはこれらの異なった炭素骨格を持つ代謝物質群が同時に見出されるといわれており、これらが相互に変換するという説もある。分子生物学的には2つ以上の代謝経路の生合成遺伝子群が共存するとの報告もあるが、代謝物レベルでの相互変換はまだ部分的に証明されているにすぎない。そこで、これらセスキテルペノイド化合物群が生合成される時に最も早い段階で生成すると考えられるゲルマクラン型の骨格で低い酸化状態にある化合物を化学合成によって調製し、これを放射性あるいはNMRに活性な同位体で標識して代謝実験を行うことは、化合物間の変換と酸化状態の変化を直接的に追跡できる点で有用な手段として期待が持たれた。 実際にイソプレン類縁体を原料として生合成類似の合成計画を立てて約12段階、収率約20%にてゲルマクレン誘導体を調製した。この方法では完全なゲルマクレン骨格を完成した後には生成物が不安定ですぐさま環状化合物へ変化するか空気酸化によって分解が起こるので比較的安定なゲルマクレンアルコールの段階で代謝実験に用いる計画である。本合成法では複数の位置への標識元素の導入が比較的容易であり、代謝実験へ有用なプローブを調製することに成功した。
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