ジャガイモシスト線虫は、農業上重要な病害害虫である。雌は秋にシスト化し、卵内2齢幼虫は20年もの間休眠可能なため、通常の農薬による防除は困難である。そこで寄主植物由来の、線虫に対する生理活性物質をまず解明し、これを逆手に用いて防除する、生態的農薬の開発を目的に研究を行った。 研究試料として、トマトを水耕栽培し、その水耕液を採取した。規模を拡大し、現在農家の温室で栽培している水耕液を購入した。含まれる孵化促進物質等の生理活性物質を、活性炭及びダイヤイオンHP-20に吸着させた。今年度は、活性本体は活性炭から脱着し難いことが分かった。HP-20樹脂より得られた物質が、孵化活性の大部分を占めているので、HP-20の吸着筒を直列、活性炭の前方に設置した。一例として、トマト水耕液54Lを、HP-20樹脂700mlと活性炭1Lの吸着物について述べる。これをイソプロピルアルコールで脱着させたところ、それぞれ2.45gと3.0gの物質が得られた。孵化活性値は前者が10^<-5>g/mlの濃度で活性、後者は10^<-4>g/mlで活性がない。共力因子を解明するため、HP-20吸着活性物質を、再度水に溶かし凍結乾燥すると10^<-3>g/mlに孵化活性が低下した。この失活物質に、トマト水耕液のエバポレーター濃縮時の凝縮水を加え、1/4濃度に調整し生物検定すると、孵化活性が10^<-5>g/mlに上昇した。これは孵化共力因子が存在することを示唆している。(この発見においてPerry教授との討論が極めて有用であった)次に、この物質の性質を調べた。まず水耕液6Lをエバポレーターで濃縮し、濃縮水を得、エーテルで3回抽出した.。エーテル層を分離し脱水後低温で濃縮したところ、油状物質約50mgを得た。この物質の中に共力因子が存在すると考えられる。 次年度はこの因子の構造を明らかにするとともに、実用化に向けて孵化促進物質の圃場への散布実験を開始し、生態的農薬として製剤化を行う。
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