研究概要 |
ジャガイモシスト線虫は、世界的に重要な農害虫である。雌は秋にシスト化し、卵内2齢幼虫は寄主が栽培されなければ、20年もの間土壌中で休眠可能なため、通常の農薬による防除は困難である。そこで寄主植物由来の、線虫に対する生理活性物質をまず明らかにし、これを逆手に用いて防除する、いわゆる生態的農薬の開発を研究目的とした。 研究材料として、温室栽培のトマト根そのもの、根浸出液およびトマト水耕栽培農家のトマト水耕廃液を用いた。今年度は、孵化促進物質と孵化共力因子I、IIの活性相互作用を解析した。 孵化促進物質を水耕液から得るために、樹脂HP-20に通した。この樹脂をイプロピルアルコールで脱着し、濃縮した。得られた物質は活性値10^<-5>g/mlで70%以上の孵化率であった。 この活性物質を再度水に溶かし凍結乾燥を3回繰り返すと濃度10^<-4>g/mlで約40%に孵化活性が低下した。失活したこの物質に、トマト水耕液のエバポレーター濃縮時の凝縮水を2.5mlずつ添加すると、孵化活性が10^<-6>g/mlに上昇した。さらに、同じ失活物質に、温室栽培したトマト根の浸出液を500倍に希釈して添加し、生物検定を行うと、活性が10^<-6>から10^<-7>g/mlの濃度で表れた。 これは孵化共力因子が存在することを示唆している。孵化共力因子を捕集するために、トマト根を直接デシケーターに入れ、真空下低温で揮発性物質を捕集した。 最初のトラップ捕集で得た物質を共力因子I、次に捕集した物質を共力因子IIと仮称した。共力因子Iで活性値が約100倍に、因子IIでは約1000倍に活性が上昇した。Iは炭化水素、IIはエステルと推定され、単離と構造解析を行っている。 一方、線虫発生圃場1m^2当たり、トマト水耕原液18Lを5,6,7,8月の4回散布した結果、当初20gの乾燥土壌当たり、3700頭のシスト内ジャガイモシスト線虫が9月に平均8.8頭(0.2%)に減少し、生態的農薬の開発が可能となった。
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