研究概要 |
本研究では、酪酸ならびにビタミンDが結腸ガン細胞の増殖停止あるいはアポトーシスを誘導する際にTGF-βスーパーファミリーの一員であるアクチビンAがメディエーターとなるか否かを明らかにすることを目的として、以下の検討を行った。 1.ヒト結腸ガン細胞株HT-29を酪酸ナトリウム(BUT)ならびに1,25(OH)_2D_3(VD)を添加した培地で培養し、細胞周期をフローサイトメーターで分析した結果、G1期停止及びアポトーシスが誘導することが示された。また遺伝子発現を半定量的RT-PCRで分析した結果、アクチビンA mRNAレベルはBUTにより時間ならびに濃度依存的に著しく増加したが、VDでは増加しなかった。トリコスタチンAによってもアクチビンA遺伝子の発現が増加したことから、BUTの影響はヒストンアセチラーゼの阻害によることが示唆された。 2.外因性のアクチビンAがHT-29細胞の増殖に及ぼす影響をBrdU取り込みならびにフローサイトメーターにより分析したが、変化は見られなかった。 3.アクチビンAの細胞内情報伝達を担うsmadタンパクのリン酸化にBUTが及ぼす影響を調べた。細胞ライセートを抗smad-2抗体によって免疫沈降し、抗リン酸化smad-2抗体を用いてウェスタン分析を行った結果、smad-2のリン酸化は外因性のアクチビンAによって誘導されるが、BUTによっては誘導されないことが示された。また抗smad-2抗体によるウェスタン分析では、アクチビンAならびにBUT添加によるsmad-2タンパクレベルの変化は見られなかった。更に、抗smad-4抗体を用いたウェスタン分析の結果、陽性対照として用いたラット小腸由来正常細胞株IEC-6においては外因性のアクチビンAによってsmad-4がsmad-2と共沈することが示されたが、HT-29においてはsmad-4は検出されなかった。 以上の結果より、BUTは結腸ガン細胞株HT-29におけるアクチビンA遺伝子の発現を刺激するが、smad-2のリン酸化を誘導するのに十分な量のアクチビンAタンパクが産生されていないこと、及びHT-29においてはsmad-4の変異によりアクチビンAの情報が伝達されず、そのため増殖抑制も生じないことが示唆された。
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