1.食物繊維による大腸ガン抑制作用の一部は食物繊維の腸内発酵産物である酪酸により説明されている。本研究では、酪酸が結腸ガン細胞の増殖停止及びアポトーシスを誘導する際に増殖因子アクチビンAがメディエーターとなるか否かを明らかにすることを目的として、以下の検討を行った。 2.ヒト結腸ガン細胞株HT-29を酪酸添加培地で培養し、細胞周期をフローサイトメーターで分析した結果、G1期停止及びアポトーシスが誘導されることが示された。また遺伝子発現を半定量的RT-PCRで分析した結果、アクチビンA mRNAレベルが酪酸により時間ならびに濃度依存的に著しく増加した。トリコスタチンAによっても発現が増加したことから、酪酸の影響はヒストンアセチラーゼの阻害によることが示唆された。しかしながら各種正常細胞株ならびにラット結腸組織断片では、アクチビンA mRNAレベルは酪酸により変化しなかったので、酪酸によるアクチビンA遺伝子発現の刺激はガン細胞に特異的な現象であると推察された。 3.外因性のアクチビンAがHT-29細胞の増殖に及ぽす影響をBrdU取り込みならびにフローサイトメーターにより分析したが、変化は見られなかった。そこで、アクチビンAの細胞内情報伝達を担うsmadタンパクのリン酸化を免疫沈降及びウェスタン分析により調べた。アクチビンAはsmad2のリン酸化を誘導したが、smad2/3/4複合体の形成は誘導しなかった。smad4 mRNA及びタンパクが検出されなかったことから、HT-29細胞においてはsmad4が欠失していることによりアクチビンAの情報が伝達されない結果、増殖抑制が生じないものと推測された。 4.以上の結果より、酪酸はガン細胞に特異的にアクチビンAの発現を刺激するが、ガン細胞においてはアクチビンAの細胞内情報伝達経路が障害されているために自己分泌因子としては作用せず、傍分泌因子としてガン細胞をとりまく正常細胞に作用してガンの進展に関与することが示唆された。
|