生体内の全ての蛋白質は、固有の寿命を持ちターンオーバー(代謝回転)している。その半減期は数週間から数分と、極めて多様性に富む。即ち、各蛋白質を特異的に分解系へ移行させる機構が存在する。また、多くの構造・機能蛋白質は、プロセシング・プロテアーゼによる部分分解でその構造、機能及び寿命を変化(活性化、脱抑制、特異性変化、短寿命化など)させる。この制御機構は全ての細胞系に存在し、生理的に極めて重要である。本研究ではこの蛋白質ターンオーバーの分子機構を明らかにし、最終的に食品工業的な応用を目指すことを目的とした。細胞内プロセシング・プロテアーゼの代表がCa^<2+>依存性システインプロテアーゼ「カルパイン」である。本研究では、カルパインに研究の焦点を当てて解析を行い、骨格筋をモデル系として、カルパインに焦点を絞って筋蛋白質ターンオーバーの分子機構を解析していき、その後食肉や微生物での応用を模索した。まず、前年度までに筋細胞をモデルとして解析したデータを基に既報の知見を総合し、選択的蛋白分解の根底にある分子機構を推定することを試みた。そして、そのモデルを筋細胞や他の組織由来の細胞において検証することを試みた。さらに、酵母、カビの系においても、PalBやCp11pなどのカルパインホモログが同様の機構で蛋白分解を制御している可能性を検討した。そして、選択的蛋白分解の一般則を明確にし、食品工業的に応用できるレベルに改良することを試みた。その結果、カルパインが筋蛋白質の分解と生合成系の重要なモジュレーションを行っていることを明らかとし、その不調が筋ジストロフィー発症の大きな原因となることが判明した。
|