哺乳類の母乳中には、複雑な宿主防衛システムが備わっており、乳児の消化管と呼吸器官から侵入してくる病原体のコロニー形成やその増殖を防ぐ働きがある。しかし、防衛システムに関わる抗菌物質の明確な役割や、その成分がどのように相互作用し、宿主を外敵から守っているかは知られていない。その中で、ヒト母乳中のリゾチーム(LZ)の含量が牛乳中の含量に比べ、顕著に高いことは注目に値する点である。又、LZと立体構造的に相同性が高いことで知られているホエータンパク質中のα-ラクトアルブミン(LA)は、哺乳類の乳中の主要成分であり、ヒト母乳中においてのみ大量のLZと同時に存在していることは大変興味深い。しかし、現在まで、LZとLAの乳中での生理機能と相互作用は解明されていない。本研究では、抗菌システムにおけるLZとLAの相互作用と生理機能の解明を目的とし、まず、鶏LZと牛LAを用いて、両タンパク質の相互作用と抗菌活性への影響を調べた。その結果、LZとLAが相互作用していることとLZ-LAの複合体はヘテロダイマーとして存在していることが明らかにした。また、複合体にしたLZ-LAは、グラム陽性菌とグラム陰性菌のどちらに対しても、強い抗菌活性があることも分かった。そして、ヒト母乳中に共存しているLZとLAの生理機能の解明するのために、一人の女性の母乳中の乳腺細胞からLZとLAの遺伝子をクローニングし、ピキアによるタンパク質の大量発現システムの構築を図た。ヒトhLZとhLAおよびこれらのヘテロダイマーのcDNAの合成し。ピキアでの発現量は、培養時間24時間で共に約30mg/Lであった。上記のように本研究により、LZはLAと相互作用することにより、その抗菌活性を向上させることが明らかにされた。さらに新しく構築されたhLZとhLAおよびこれらのヘテロダイマーのピキアによる画期的な大量発現システムは、今まで明らかにされていない、ヒト母乳中でのLZとLAの機能特性の解明に貢献できる。
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