本研究は、一昨年度ではアントシアニジンの細胞トランスフォーメーション抑制効果と化学構造との関係を明らかにした。昨年度は、これらの結果を踏まえて活性の一番強かったデルフィニディンを用いてアントシアニジンによる細胞トランスフォーメーション抑制作用の分子機構をシグナル伝達系から転写制御レベルまで解析した。その結果、デルフィニディンが、TPA誘導性がん原遺伝子AP-1の転写活性を濃度依存的に抑制した。シグナル伝達系を調べた結果、デルフィニディンが、MAPキナーゼであるERKおよびJNKのリン酸化を特異的に阻害したが、p38のリン酸化を阻害しなかった。その上流のMAPKキナーゼへの阻害作用も同様な結果が得られた。これらのことから、デルフィニディンが、細胞内シグナル伝達系p38の経路を通さず、ERKおよびJNKの経路を通してがん原遺伝子AP-1の転写活性をブロックし、TPA誘導性細胞トランスフォーメーションを抑制することと考えられた。これらの結果は、日本農芸化学会2002年大会および日本分子生物学会2002年大会に発表した。また、原著英語論文も欧州の「国際腫瘍雑誌」に採用され印刷中である。さらに、これらの結果を主体としたアントシアニンの抗がん分子メカニズムに関する総説が米国の「最新分子医学」誌に掲載されている。
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