研究概要 |
実験動物への化学発がん剤投与で標的臓器にDNA酸化傷害が生じるか、さらにそのDNA酸化傷害をエスクレチンが抑制するか検討した。シリアンゴールデンハムスターに膵癌を発症させるニトロソアミンであるN-ニトロソビス(2-オキソプロピル)アミン(BOP)を単回投与(20mg/kg体重)し、膵臓の核DNA中のDNA塩基の酸化傷害物である8-ヒドロキシ-2',-デオキシグアノシン(8-OHdG)を経時的に測定した。さらに、ラットに大腸癌を発生させる1,2-ジメチルヒドラジン(DMH)についても20mg/kg体重の単回投与による大腸粘膜における酸化傷害を調べた。BOP処理のハムスター膵臓では2〜6時間後に8-OHdG量が有意に上昇し、24時間後には投与前のレベルに回復した。一方、DMH投与のラット大腸粘膜では6〜48時間後の間8-OHdGレベルが有意に上昇し、96時間後には投与前のレベルに減少した。BOP投与30分前にエスクレチン水溶液[1〜4μmol(0.18〜0.71mg)/kg体重]を経口投与して4時間後に膵臓の8-OHdGレベルを測定すると、1μmol/kg体重のエスクレチン処理で8-OHdGの上昇は有意に抑制された。また、DMH投与の1週間前からエスクレチン0.01%含有水を飲水として与えておくと、DMH投与24時間後の大腸粘膜中の8-OHdG量の上昇は完全に抑制された。ハムスター/BOP系とラット/DMH系のいずれの系において、エスクレチンの配糖体であるエスクリンを餌または飲水中に0.1から1%混合して1週間前から与えると、エスクレチンと同様に発がん剤による標的臓器における8-OHdGの上昇を抑制することも確認した。両系の短期発がん実験において、イニシエーション期またはプロモーション期にエスクリンを与え、前がん病変や腫瘍形成を抑制するか現在実験中である。
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