研究概要 |
本研究は,空中写真判読による林地の消失・回復面積の履歴と現地調査による群落構造とその遷移を把握し,渓畔域の動的立地環境が群落構造,植生遷移に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 調査地は安倍川上流の大谷川の1km区間とした。空中写真判読は1964年以降,約5年ごとに行い,高木林,低木林,渓床に分類し,地形図に移写した。現地調査は,毎木調査と土壌調査を行った。撹乱の頻度と強度に関する指標として最大日雨量から求められる確率年を用いた。また樹種の遷移系列を把握するため,種組成をもとにクラスター分析を行い4段階に区分した。 調査解析結果より以下の知見が得られた。 I期は植生侵入開始から10年以内の群落で,先駆性樹種のヤシャブシ,ヤマハンノキ,オノエヤナギが優占し,未だ確率降雨10〜30年規模の降雨を経験していない群落であった。II期は植生侵入後10〜25年で樹冠を先駆性樹種が覆い,その下層には次世代種であるシデ類が,林床には遷移後期種であるカエデ類,ミズナラが存在する群落であった。III期は植生侵入後,25〜45年で樹冠をシデ類が形成し,下層植生には次世代種のカエデ類が多数存在した群落であった。II期とIII期は,確率降雨10〜30年規模の降雨を経験したと推察される。IV期は植生侵入後45年以上が経過した群落で,カエデ類が優占度,樹齢において多種を圧倒していた。また,確率降雨30年規模の大規模な降雨でも撹乱を受けなかったと推察される。 渓畔域は,一般林地に比べて大規模な撹乱の影響を受けやすく,林地は消失と回復を繰り返す動的立地環境にある。本研究の結果,大谷川渓畔域においては,確率降雨10年以上の降雨に起因する撹乱を受け,群落は先駆性樹種→シデ類→カエデ類と遷移し,群落構造と土壌の肥沃度は成立後約45年を経過すると周辺の森林に近づくことが明らかとなった。
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