近年の流動性に富んだ土砂移動現象においては、特に、樹林帯との関わりの中に(1)土石流の流路沿いの木々は土石流によって侵食されてその中に巻き込まれ、下流で流木災害を発生させている、(2)土石流が樹林帯の中で停止している、(3)流木がからみあって流路の途中にいわゆるビーバーダムを形成し、土石流土砂の一部やその他の流木を捕捉している、などの状況が認められることがある。樹林帯を土石流やがけ崩れによる災害の緩衝帯として利用しようとする動きは各地で進められているが、モデル実験などによる基礎的な研究成果をふまえてはいるものの、十分な現地調査データに基づいているというより試行的な要素が強い。そこで、近年発生した土砂移動に対する樹林帯の抑制機能とその現れ方をまとめてみることにした。 平成13年度は、東広島のアカマツ混じり二次林分布地域で発生した土石流のうち10本について土砂収支の調査を、また、6本について植生調査を実施した。土砂量の観点から、これらの土石流が従来風化花崗岩地帯の土石流に関して報告されている土砂量の範囲であることがわかった。また、発生した土石流が流路勾配7°程度以下の樹林の中では堆積停止傾向が急増し、上流・中流域で侵食した石れきや流木とともにもとの流路の2/3程度の勾配で堆積していることがわかった。広島の風化花崗岩地帯で発生する土石流に対しては砂防ダムによる対策がとられるが、この堆砂勾配はもとの河床勾配の1/3程度にしかならないことがわかっており、ダムと樹林帯の相乗効果をねらった新しい防災施設の構想につながるものとなった。植生調査からは、樹木の占有率(胸高樹幹面積和/土地面積)が1.6〜5.0‰、100m^2あたりの樹木数が196〜402本、大部分が胸高直径5cm以下というものであったが、停止堆積効果を持っていたといえる。一方、高知県南国市周辺の40-50年生のヒノキ林を流れた土石流および山火事跡地の貧弱な竹林を流れた土石流の調査から、ヒノキの樹林帯にも土石流のエネルギーを抑制する緩衝林としての効果を期待できると思われる結果を得た。なお、樹種や樹木占有率について定量的にまとめるために調査を継続中であり、並行してモデル実験による検討も続けている。
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