豪雨によって発生した流動性の高い土石流が樹林の中に入り込んで停止したり、そこに巨石や流木を置いて流下し、下流へは細粒の土砂だけが供給され、被害が最小限に抑えられている状況がしばしば見うけられる。この中で、どのような場合に停止しやすいのかがひとつの課題である。そこで、海堀らは停止につながる特性を把握するための現地調査も継続しながら、流木混じりの土石流は流木なしのときと比べて自らの中で流動を抑制する特性を持つのではないかと考えるに至った。そこで、この観点について検証するために、室内実験を行った。実験は土の供試体を土質試験装置の中で流動化させ、そのときの抵抗力を計測しながら流動の様子を観察するものである。流木として疑似木を使い、その数を調整することで変化を見るものである。流木が混入していることで流動中に流木同士がからまって流動が抑制されることが予想され、実験からも流動開始時にいったん抵抗力が極小値になるものの、その後、再び上昇するという傾向が得られている。現在、まだ定量化には至っていないが、今後に期待できると考えている。 また、樹林が地表を覆っている斜面での土砂移動量が植生のない場合に比べて明らかに少なくなることはこれまでにも研究されていた。流域上部の樹林を抜けて下流に流出する土砂を、傾斜の緩くなった位置に存在する樹林の緩衝作用と人家周辺の田畑の遊砂地的な機能を利用することによって調節する、という防災空間としての土地利用形態が考えられた。日浦らはこの観点から高知県西部四万十川上流域にある小流域において過去の雨量と土砂移動の実態および近年の土砂移動の状況の調査を行った。その結果、樹林などの植生によって土砂移動の程度が明らかに小さくなり、その下流側にある田畑に土砂が入り込んだとしても、新たに堆積のための施設を施工することに比べその修復の費用は小さく抑えられるということを示した。
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