樹林帯のもつ土砂移動現象抑制効果は樹林単独の特性としてではなく、樹林の存在している場の条件との関係のもとに論じられることが重要である。すなわち、樹林が流路に存在した場合、それが被災対象あるいは保全対象となる居住エリアとどのような関係にあるのか、そこに入り込む土石流がどのような勢力を有した状態であるのかを抜きに樹林のもつ土砂移動現象抑制効果を論じることはできないと考える。その違いを筆者らはまず、等価摩擦係数で表現した。居住エリアの位置との関係により、樹林がある時は流木災害に加担するものとなり、ある時は土石流の構成物質を自ら堰き止めやすく振る舞うことを示した。また、筆者らは豊かな樹林が存在する斜面においては、樹林帯が崩壊や土石流の移動開始を防止または遅延させることを示した。樹林がなければ斜面上に残存できないはずの表層土は、かつては渓床において不安定な状態で大量にたまっていたはずである。かつてはこのため、容易に土石流の発生につながっていたが、現在は樹林の生育によってそれらが減少してきていることを論じた。また、樹林のもつ抵抗体としての効果を論じる場合は、樹林の本数密度ではなく、樹林の胸高断面積などから求められる占有面積率で議論する方が的確であることを示した。同時に、占有面積率が数‰以上になると明瞭にその効果が現れ始めることを示した。また、外力に対する抵抗力を論じる際に非常に重要となる土石流等の推定流速の算出手法について、新たな計算式を示した。この式による算出結果は現地調査から得られた土石流等の移動速度と調和的であることを示した。その結果、土石流が来た場合にどのような位置にある樹林が耐えられるかを推測できる可能性が示唆された。
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