研究概要 |
本研究は,防構造物の立地状況が異なる渓流区間-透過型砂防ダム施工区間(名貫川水系袋谷川),不透過型砂防ダム施工区間(一ツ瀬川水系竹尾川),砂防施設未施工区間(名貫川水系名貫川)-を対象として,これまで十分に確認されていない透過型砂防ダムの渓流生態系保全機能を明らかにするものである。本年度調査では以下の諸点を明らかにした。 1)対象区間の現況砂防構造物の立地状況と過去の地表変動履歴を対応付けた結果,不透過型砂防ダム施工区間においては30年前と60年前の土砂移動を契機として,8基の不透過型砂防ダムによる砂防工事が展開されてきた。 2)上記の50年以上に及ぶ不透過型砂防ダムによる渓床土石の固定は,河床堆積物の粒度組成・形状・大きさ等の底質特性に影響を及ぼしていることが,扁平率や摩擦速度u_*と平均粒径の0.4倍の粒径を持つ砂礫の限界摩擦速度u_<*c1>との比(u_<*c1>/u_*)など,水理学的な指標から裏付けられた。 3)各対象区間の瀬・淵・サイドプールを選定し,そこに生息する水生昆虫群集の構成種,現存量,季節変化を調べた結果透過型砂防ダム区間においては水生昆虫相に著しい差異はダム上下流間で認められなかったが,不透過型砂防ダム区間では,底質との依存度が強い葡萄型生物(ヒラタカゲロウ属など)の減少傾向が認められた。さらに,これまで渓流生態系の復元要素として考慮されてこなかった成虫段階での生活史を補償するための基礎調査としてマレーズトラップによる水生昆虫の羽化行動を観測した結果,不透過型砂防ダム区間では河床型の均一化が羽化環境に反映し,良好な羽化環境が維持されていないことが推察された。
|