研究概要 |
一定規模の自然攪乱を許容し平時の無害な土砂や渓流生態系を循環する様々な物質を流下させ環境保全と土砂制御の両立を目的とした透過型砂防ダムの採用が進んでいるがら,透過型砂防ダムが渓流環境保全に資する機能については不明である。本研究では透過型砂防ダムの渓流生態系保全機能を検証し以下の結果を得た。 (1)不透過型砂防ダム区間では渓床の単調化に伴って水深の浅い平瀬や湿地等特定の環境に適応した特定種が異常繁殖するが透過型砂防ダム区間ではこの傾向は小さい。 (2)摩擦速度と限界摩擦速度との比により渓床砂礫の移動のし易さを評価し水生昆虫相と対比した結果,砂防施設立地状況(砂防施設の規模・密度)に起因する河床砂礫の脆弱さと水生昆虫相との対応様式が確かめられた。 (3)透過型砂防ダムは水生昆虫相に及ぼす影響が少ないことが,砂防施設立地状況を従属変数,季節・水生昆虫の種属別密度・生活型毎密度等を固定因子とした分散分析から,統計的に裏付けられた。 (4)不透過型砂防ダム区間では河床の単調化に伴って止水域が卓越するため,リターの滞留・分解が促進されることを現地調査で確認した。さらに河畔に優占する植物には,その落葉がリターとなって渓流に供給され水中での分解が進むと多量のK^+(タラヨウ,ヤマビワ),Ca^<2+>(ガクアジサイ,イヌビワ)を溶出するものがあることが実験的に確かめられた。従って不透過型砂防ダム区間では,地質条件のみならず河畔植生も渓流水質を規定する要因として重要であることが示唆された。 (5)不透過型砂防ダム区間では河床の単調化に伴って,浮き石区間が激減し水生昆虫幼虫の重要生息場は消失されるため,不透過型砂防ダム区間では新たな生息場所を求めることを目的とした形態の水生昆虫幼虫の流下移動(drift)が確認されたが,河床の変質が小さい透過型砂防ダム区間ではこの形態でのdriftはない。
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