本研究では、"表面"と"バルク"という紙の持つ2つ領域においてさまざまな紙の物性を評価した。最初に紙同士の摩擦を評価した。表面同士が接触する部分の形状などによって摩擦係数は決定されるものと思われがちだが、実際にはその柔らかさや弾性にも影響されることを示唆する結果が得られた。また塗工紙の場合には表面の磨耗による平滑化が進行し、摩擦中での変形にも目を向ける必要があることがわかった。大きな粒径をもつ摩砕炭酸カルシウム(GCC)の沈降性炭酸カルシウム(PCC)に対する比率を大きくすると、予想とは反対に(特に動)摩擦係数を低下させるという事実から導き出された。次に、バルクを評価する上で正確な空隙率(密度)測定を水銀浮力法によって行った。特に、かさ高剤を添加したような柔らかい紙での評価に適する方法であることがわかった。マイクロメータ式の厚さ計では50kPaの荷重が加えられるのに対し、水銀浮力法では、3kPa程度であることも理論計算により明らかとなった。最後に、塗工紙製造工程におけるにSBラテックスのマイグレーションに及ぼす各種水溶性高分子の影響を調べた。カルボキシメチルセルロース、セロウロン酸、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子は、ラテックスのマイグレーションを抑制した。荷電や粘度がその原因ではなく、直鎖状の構造が、顔料粒子間の緩いネットワークを形成し、ラテックス粒子をトラップしていることが示唆された。セルロース系高分子が顔料粒子間のネットワークを安定化させる特異性があることが示された。
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