中国乾燥地域に砂漠緑化用として植栽されてきた林木の木材賦存量は年々増大している。東北地方から華北部一帯に植栽されているマツ類やポプラ類の造林木の多くは30年生から40年生であり、これらの林産資源としての有用性の評価は、中国林業にとって重要な今日的課題である。本研究では、申請者がこれまでに蓄積してきた温帯産未利用小径広葉樹の材質変動特性に関する基礎的知見に基づき、中国乾燥地域の小径造林木の材質特性を究明することを目的として、13-14年度においては、乾燥地ポプラ造林木および半乾燥地樟子松造林木の樹幹内部における未熟材の分布と肥大成長との関わりについて調べた。15年度は、ポプラ(ハコヤナギ属)造林木の二次木部中に特異的に存在するカルシュム結晶に着目し、これの分布と肥大成長との関わりについて検討した。供試木には無灌漑状態のポプラ2種、在来種のテリハドロ(SX)と交配種のペキンハコヤナギ(BX)を用いた。なお、一部のテリハドロ(SD)は灌漑条件下で生育していた。これらの二次木部中での結晶の分布とその形態的特徴、肥大成長や灌漑の有無が結晶形成に及ぼす影響について検討した結果、以下の事が判明した。(1)結晶は辺材部では存在せず、心材部から移行材部にかけて、成長輪に沿って帯状に分布する傾向があった。(2)灌漑区テリハドロ(SD)は、無灌漑区テリハドロ(SX)に比べて、二次木部内の結晶量は少なかった。(3)交配種のペキンハコヤナギ(BX)は、在来種のテリハドロにくらべて、二次木部内の結晶が少なかった。(4)2種のポプラともに、肥大成長の良好なもの(優勢木)のほうが、結晶は少ない傾向を示した。(5)2種のポプラともに、結晶は道管要素、木部繊維、放射組織、軸方向柔細胞にのみ認められた。以上の結果から、中国乾燥地におけるポプラ造林地では、造林地の水分条件を改善することによって、材質的に問題の多い結晶を少なくできる可能性が示された。また、ペキンハコヤナギのほうが在来種のテリハドロよりも結晶が少ないため、乾燥地域ではペキンハコヤナギを植栽するほうが利用面からも有利である。
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