研究概要 |
本研究は,交尾卵生種と非交尾卵生種が混在するカサゴ目カジカ上科魚類を対象に,交尾の外適応としての多回産卵など繁殖形質および精子の機能形態など、父性の決定に関わる要素について、生態学、生理学的な比較研究を行った。 本年度は以下の事柄が明らかとなった。 ・周年にわたる生殖腺の組織観察から本属のヤセカジカ,キマダラヤセカジカは,いずれも部分同時発生型の卵巣卵の発達様式を示し,本種が潜在的な多回産卵性を有することが明らかになった。しかし,水槽内で一繁殖期に産卵する回数を調べる飼育実験を行ったところ,雌が卵をふ化まで保護し,その間の約1か月間新たな産卵をすることがなかった。この観察結果から,本種の部分同時発生型による2つ目以降の卵群は,卵保護中に卵を捕食されたときなどの補償であろうと推定された。 ・ヤセカジカ属は魚類でも稀で,カジカ類では初めての報告となる雌が卵保護を行うカジカであることが明らかとなり,卵保護に適応した雌の口唇部の二次性徴,卵発生に伴う卵保護行動の経日変化などが観察された。 ・生殖腺の組織観察および水槽内での行動観察の結果から,本属が産卵期の数か月前から交尾期に入る交尾型カジカであることが示された。また,精子貯留に適応した精巣付属器官および卵巣薄板の特化機構の組織学的に解明した。 ・本属は,カジカ類で特異的な雌保護,1回産卵の交尾種であった。このような繁殖様式は,非交尾,雄保護交尾を経て進化してきたと予想されるが,次年度,近縁なセトカジカ属を含めて比較研究を進め,この仮説を検証する。
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