本研究では、二枚貝の人工種苗生産時に発生して重篤な斃死をもたらすビブリオ菌を原因とする細菌性壊死症を、抗生物質を用いることなしに斃死を効果的に抑制することを大きな目標とした。特に、マガキ幼生の生体防御機構とビブリオ菌の増殖を特異的に抑制する生物学的防除法の関係に焦点をあてて、感染抑制の機能を発揮できるようになる仕組みの解明を2つの方法を用いて試みた1つは、広範なプロテアーゼ阻害活性を有する卵白由来のタンパク、オボマクログロブリンを幼生の飼育海水に添加する方法である。その結果、V.tubiashii(ATCC19106)とV.alginolyticus(ATCC19108)を最終密度が10^5 colony forming units(CFU)/mLとなるようにマガキ幼生の飼育水槽に投与した場合、2つの菌株ともに非常に強い病原性を示し、感染24時間後には、ほとんどすべての幼生が死亡した。これらの結果に対し、オボマクログロブリンを10μg/mLとなるように添加した場合、V.tubiashii感染区ではほとんどの幼生は感染症の症状を示すことがなかった。生存率も菌体のみを感染した区と比較して有意に大きく上昇し、感染24時間後でも90.6%の値を維持していた。2つめは、マガキ母貝飼育水から、マガキ幼生に対して病原性を示すVibrio属細菌の増殖を抑制する海洋細菌を分離した。分離された51株のうち、6株が供試した3種類のVibrio属細菌に対する強い発育阻止能を寒天平板上で示した。また、マガキ幼生に対する感染阻止能を検討した結果、V.alginolyticusのみを接種した実験区では、感染24時間後に幼生の生残率が8.4%であったのに対し、平板上で最も強い発育阻止能を示した分離株であるS21株を共存した区では生残率は78.0%となり、大幅な改善が認められた。
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