ニジマスの耳石の主要な基質タンパク二種(OMP-1およびOtolin-1)に対する特異抗体を作成し、光顕・電顕免疫組織化学をおこなった。OMP-1に対する特異抗体は、内耳小嚢上皮のうち扁平上皮細胞と強く反応した。電顕免疫組織化学では、扁平上皮細胞に存在する大型(直径0.5-1μm)で電子密度の低い物質を含む分泌頼粒に陽性反応を認めた。このことから、扁平上皮細胞が主要なOMP-1産生細胞であると断定した。Otolin-1に対する特異抗体は、感覚上皮細胞に接する円筒形の背の高い移行上皮細胞と強く反応した。陽性細胞の数は、1枚の切片上ではわずか数個であった。電顕免疫組織化学では、これらの細胞の基部の大きな袋状の構造に強い免疫陽性反応を認めた。詳しい電顕観察の結果、これらの袋状構造物は極端に膨らんだ粗面小胞体であると判断された。このことから、これらの細胞がOtolin-1産生細胞であると断定した。一方、免疫電顕により、OMP-1が耳石内にほぼ均一に分布することが明らかになった。Otolin-1は、耳石膜ゼラチン層に強い免疫陽性反応を認めたが、耳石基質内には微弱な反応しか認められなかった。このことから、ゼラチン層と耳石基質内では、Otolin-1の三次元構造が異なるか、もしくはOtolin-1に結合するタンパク質の種類・量が大きく異なるなどの違いがあるものと考えられた。 さらに、RT-PCR法を用いて、ニジマスの個体ごとに両タンパク質のmRNA発現量を定量するための技術開発に取り掛かった。市販の微量mRNA採集キツトを用いることにより、RT-PCRに充分な量のmRNAをニジマス1個体の小嚢より抽出できることが確認された。現在、定量的PCRをおこなうため、プライマーの特異性の検定をおこなっている。
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