雨水合流方式を採用している都市下水中の変異原性物質が、主に有機物処理を目的に設営されている下水処理場でどの程度分解無害化されて東京湾に流入しているかの評価を初年度に行った。 河川水中の変異原性についての研究報告は多いが、その大半が前処理としてブルーレーヨン(BR)抽出を行っている。この抽出法は稀薄試料から変異原性物質を濃縮するには優れた捕集法であるが、化学構造上の特性から多環芳香族炭化水素類に限られており、ニトロソアミン類などのような直鎖状または二環以下の変異原性物質はほとんど捕捉出来ない。この点が致命的で、汚染の実態を実際よりもかなり低く評価する恐れがある。 そこで本研究では、下水の各処理段階ごとに全量濃縮した試料を用いてumu試験で総変異原性を評価し、BRによる結果と比較したところ、BR抽出法では都市下水総活性の約半分しか捕捉できないことが明らかになった。また採水前一週間の天候との関係を調べたところ、晴天が続く乾季には有機物処理を目的とした活性汚泥処理工程でも、変異原性のかなりの部分が分解無害化されていることが分かった。一方、豪雨の直後には処理場内滞留時間が短く、かつ大量の雨水で希釈されるために見掛け上は陰性となるが、実際には処理能力を越す下水が塩素滅菌を受けただけでポンプ所から直接河川に放流され、変異原性の相当部分はそのまま東京湾に流入するものと推定された。 また処理場内には、これらの家庭排水に由来する変異原性物質を炭素源として資化できる菌が居ることが十分考えられる。そこで最小培地に各種変異原を添加した選択培地を用い、このような資化特性を有する菌の釣り上げを目的とした継代集積培養を実施中で、次年度には釣り上げた微生物による環境修復の第一段階試験を行う予定である。
|