研究概要 |
本研究では東京都の雨水合流式下水処理場を対象とし、降雨量の異なる状況下で処理場内の4箇所で下水試料を採水して変異原性の消長を調べた。これに加えて米国環境保護庁(EPA)が監視対象としている多環芳香族炭化水素(PAHs)16化合物も対象とし、天候条件別に下水処理工程における消長を追究した。この場合、申請者らが行っている全量濃縮乾固後に極性の異なる有機溶媒で抽出する方法以外に、水系からのPAHs類分離に頻用されるBlue Rayon(BR)抽出物をも調製し、両者を比較してそれぞれの優劣を検証した。結果の概要は以下の通りである。 1)PAHs:(1)晴天雨天とも流入水からPAHsが検出されたが、雨天の合計量は希釈され晴天の約半分だった。(2)放流水中のPAHsを個別にみると、アセナフチレン・ピレン・ベンゾ[a]アントラセンの3種が天候に関係なくいずれも0.2ng/L以上検出された。晴天の場合にはこれらに次いでナフタレン・フルオランテン・ベンゾ(a)ピレンが多く、雨天の場合にジベンゾ(a,h)アントラセン,ベンゾ(g,h,i)ペリレンなどがあり、いずれも0.1ng/L以上検出された。(3)BR抽出では晴雨とも各段階から総量で0.1ng/L以上のPAHsを検出したが、晴天時試料で全量濃縮法の1〜11%、雨天時試料で2〜25%相当量が回収されただけであった。また、放流水から検出されたPAHsも、全量濃縮法に比べるとはるかに低かった。 2)変異原性:(1)全量濃縮試料では天候に関わらず、流入水・曝気槽水から2.139-7.719×10^<-6>/ml/Plateの直接変異原性を検出し、塩素処理前・放流水も擬陽性であった。しかしBR抽出試料では、1検体を除きすべて陰性となった。(2)間接変異原性に関しては、全量濃縮試料とBR抽出試料のいずれからも検出されなかった。 3)以上から本実験条件で見る限り、直ちに東京湾の安全性を脅かすほどではないが、今後の改善が必要である。また、水試料の汚染状況調査に広く用いられているBR法でPAHs量や変異原性の強さなどを測定すると、実際よりも過小評価する恐れのあることが分かった。*2003年度日本水産学会で、3件の発表を行った。目下、投稿準備中である。
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