研究概要 |
九州の天草周辺海域ではハンドウイルカが周年にわたって出現する.平成12年の春,熊本県通詞島周辺海域をそれまでの定住の場としていた個体の大部分が60km位離れた鹿児島県長島周辺に移動した.本研究はこの移動の原因を探ることを目的としていたが,平成13年の春にほとんどの個体が通詞島周辺海域に戻ってきて,逆に一部の個体のみ長島周辺に残った.このために,研究目的を両海域間での海域利用の比較に焦点をあてつつ個体群生態学的知見の充実に変更して,当初の予定した項目の調査を行った. 2001年春一秋,通詞島周辺で20回,長島周辺で11回,1回1-4時間,ボートでイルカの群れに接近し背びれの写真を撮影した.背びれ後縁の傷の形等をもとに個体を識別した.通詞島沖では標識再捕法を用いて個体数を推定し,群れの小さい長島沖では全個体の撮影・確認を試みた.1994年以降の識別個体の再発見、天草周辺域の広域目視調査のデータも解析に用いた 通詞島周辺の個体数は172頭と推定された.長島周辺には親子5組を含む計32頭(多くは通詞島沖で識別されていた個体)がいて,構成メンバーはほぼ同じであった.両海域で重複して発見された個体はなく,海域間での個体の相互移動は少ないと考えられた.2001年,両海域での推定総個体数は204頭となった.死亡あるいは他海域へ移動したとみなした識別個体(その年以降発見のない個体)の数は,94-97年は平均4.8頭であったが,98-01年は13.3頭であった.広域目視調査では両海域以外でイルカの群れを確認できなかった.利用海域の変更前後に個体数が減少した可能性は否定できない.
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