研究概要 |
九州の天草周辺海域ではミナミハンドウイルカが周年にわたって出現する.平成12年の春,熊本県通詞島周辺海域をそれまでの定住の場としていた個体の大部分が60km位離れた鹿児島県長島周辺海域に移動した.本研究はこの移動の原因を探ることを目的としていたが,平成13年の春にほとんどの個体が通詞島周辺海域に戻ってきて,逆に一部の個体のみ長島周辺海域に残った.このために,研究目的を両海域間での海域利用の比較に焦点をあてつつ個体群生態学的知見を充実させることに変更して,当初に予定した内容の調査を行った. 長島海峡を航行する2つのフェリーに群れの発見記録を前年同様に依頼した.測量機器セオドライトを用いて,長島の陸上定点から群れの追跡(群れの刻一刻の出現位置の計測)調査を本年度から開始した.この定点からは群れの出現海域全域は見渡せないものの、長島海峡南部海域での群れの移動を追跡することは可能であった.この調査を4月から11月まで32日間行った. フェリーによる群れ発見記録,調査船による群れの追跡,セオドライト調査からのデータから、長島海峡に出現する群れは朝に内湾(八代海)に近い海峡北部海域、昼間は南部に、夕方は再び北部海域に出現する傾向が認められた.一方,海岸線が東西に伸びる通詞島周辺海域では東西方向の日周移動が見られていることから,日周移動と地形との関連が示唆された. 両海域とも水深20m以浅域で数時間以上滞在し,この間の規則的な潜水行動が観察された.この状態は休息と考えられた.夜間、外海には行かず何らかの活動をした後,朝の過渡期を経て,昼間に浅海域で休息し,夕方から夜間の活動場所に向かい始めると推測された.
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