前年度の報告で熊本県五和町沖の調査海域に生息するハンドウイルカ個体数が激減した2000年群を中心に調査を進めていることを述べた。その後も、数日間姿を消すことがあったが、必ず当海域に戻ってきており全ての群れがこの海域に滞留していたと考えられる。2000年群のシグネチャーホイッスルは28種であったが、本年もその数はほぼ維持されていた。また、1999年からの総シグネチャーホイッスル種類数も267〜285種と2000年の28種を除きほぼ当海域に生息すると考えられている個体数と一致し、発生音による個体数推定の可能性が高いことが明らかにされた。さらに、調査を開始して8年経過後も観測されるシグネチャーホイッスルが66種もあり、高い恒常性が推察された。また、シグネチャーホイッスルが親しい個体間での応答を中心に利用されることが報告されているが、多くの群れが集まり滞留している時には親しい個体との応答よりは別の群れとの応答が増えることが明らかになった。小群内での応答は他の群れと離れて個々の小群に分かれて移動中にのみ観察された。この海域の個体は疎遠とはいっても80年以上ほぼ生活を共にしており個々の群れを構成する個体が各々初対面とは考えられない。この結果、滞留中に小群外との応答の機会が増えたことにより応答が増えたと考えられ、全く疎遠な群れ間でも同様の結果になるかどうかは不明である。このことは、親しい個体との応答の方が直ちに行われ、疎遠な個体には応答が遅れるとの報告に対して、今回の調査では群れの内と外での応答時間にほとんど差が見いだせなかったことからも言える。 個々のシグネチャーホイッスルの変動について調査したところ、変動の範囲は周波数では2〜4%程度と極めて正確に発音していたが、時間的には10%以上の変動幅があり、これらを考慮して、今後も個体識別のためのシグネチャーの分類を実施して行きたい。
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