研究概要 |
貝類の貝殻や魚類の耳石などの硬組織は近年,成長解析や生活履歴の解明,生息環境情報の解析に用いらている。しかし,貝類の場合は年齢査定もままならない状況にある。貝類の年齢査定の要望は水産サイドはもちろん,生態学や貝塚などを扱う考古学などさまざまな分野から出されており,新しい年齢査定法の開発は緊急の課題であると考えられる。そこで,本研究では蛍光物質や微量元素を標識として貝の種類や成長縞の有無にかかわらず,その貝の年齢を査定できる新しい貝類の年齢査定法を開発することを目的とした。 材料には海産二枚貝を用いた。これまでの報告や申請者の予備実験から成長縞の有無,生息域の違い,水産重要種などを考慮して成長縞のあるアサリ,成長縞のはっきりしないイガイ類,極域に生息するソトオリガイの仲間,深海に生息するシロウリガイとシンカイヒバリガイを実験材料とした。 (1)成長縞の有無の検討と構造観察 従来法である酸による貝殼エッチング法により成長縞の有無,成長縞のある場合にはその特性を検討した。ダイヤモンドカッターによる貝殻断面を3%酢酸やEDTAによりエッチングして,金属顕微鏡および走査型電子顕微鏡により成長縞の直接観察を行なった結果,極域および深海に生息する貝類にも成長縞様の凹凸が形成されることを確認した。成長縞の微細構造は凹部と凸部で明瞭な違いは見られなかった。 (2)蛍光物質およびストロンチウムによる貝殻への標識法の検討 テトラサイクリン(TC)などの蛍光物質および塩化ストロンチウムの貝殻への取り込みと蓄積条件の検討を行なった。TCでは200mg/lで明瞭な標識が可能であることがわかった。南極に生息する貝への標は成功したが,深海性二枚貝への標識は困難で,次年度改良し再挑戦することにした。
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