貝類の貝殻や魚類の耳石などの硬組織は近年、成長解析や生活履歴の解明、生息環境情報の解析に用いられている。しかし、貝類の場合には年齢査定もままならない状況にある。貝類の年齢査定の要望は水産サイドはもちろん、生態学や貝塚などを扱う考古学などさまざまな分野から出されており、新しい年齢査定法の開発は緊急の課題であると考えられる。そこで、本研究は蛍光物質や微量元素を標識として貝の種類や成長縞の有無に関わらず、その貝の年齢を査定できる新しい貝類の年齢査定法を開発することを目的とした。 (1)成長縞の検討 酸に強いといわれる成長線の部分と弱いといわれる成長輪の部分の微細構造を走査型電子顕微鏡で検討した。基本的な構造に違いはみとめられず、エッチングした場合にも凹凸はできるが酸によって溶解した部分の微細構造に大きな違いはみとめられなかった。 それぞれの部分の有機マトリックスを採取しようと試みたが両者を完全に分離して採取することができなかった。したがって、両者を構成する有機マトリックスの異同を分子レベルで解析することはできなかった。 (2)蛍光物質およびストロンチウムによる貝殻への標識法の検討 浅海種および深海種について蛍光物質であるテトラサイクリンと元素のストロンチウムによる標識を行った。実験に使用した貝類では深海種は標識中は生存していたが深海に再放流して回収した個体はほとんどが死亡しており成長解析を行うことができなかった。一方、それ以外の二枚貝では標識がすべて成功し、ミクロンレベルの微量な成長を解析できるストロンチウム標識法を確立し報告した(研究発表の項参照)。
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