マツカワ、Verasper moseri、は冷水域に生息するカレイ目魚類である。本研究では、マツカワにおいて、飼育環境(水槽色)と生体防御能および生理状態の関連の解明を目的とした。 まず、生体防御や体色調節等に関わるホルモン群の前駆体タンパク質であるプロオピオメラノコルチン(POMC) cDNA(3種)をクローニングした。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法とサザン分析法により、POMC-AおよびB遺伝子の発現を、主に脳下垂体において認めた。POMC-C遺伝子の発現は調べたすべての組織(脳下垂体、脳、心臓、脾臓、頭腎、肝臓、胃、腸、精巣、卵巣、筋肉、および皮膚)において認められた。また、免疫組織染色法およびin situハイブリダイゼーション法により、脳下垂体のPOMC産生細胞を前葉と中葉に認めた。 マツカワを白色および黒色環境で飼育したところ、下垂体中葉におけるPOMC-A、BおよびC遺伝子の発現量は、黒色環境の方が白色環境よりも高かった。また、皮膚におけるPOMC-C遺伝子の発現量は黒色環境の方が白色環境よりも高かった。以上の結果から、脳下垂体と皮膚におけるPOMC遺伝子の発現は、背景色の影響を受けることがわかった。マツカワの体色調節に傍分泌あるいは自己分泌作用の関与が考えられる。 一方、白色水槽飼育魚の成長が黒色水槽飼育魚よりも良好であることを認めた。哺乳類において食欲増進ホルモンであることが知られているメラニン凝集ホルモン(MCH)遺伝子の脳内発現量が白色環境化のマツカワにおいて高いこと、また、MCH遺伝子の発現量が絶食によって高まることから、白色環境において産生量が増加したMCHが食欲を増進したものと考えられる。 コイおよびニジマスにおいて確立した方法を用いて、マツカワの白血球に対する黒色素胞刺激ホルモンの効果を調べた。しかしながら、再現性のある結果が得られなかった。
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