研究概要 |
シロウオLeucopsarion petersiはハゼ科の小型遡河性魚類で,ある程度卵黄蓄積が進行した状態で川に遡上するが,遡上後卵黄蓄積はいったん停止し,河川で営巣後急速に卵黄蓄積が進行し産卵に至る.営巣前の,卵黄蓄積が一旦休止したシロウオの卵巣を用い、in vitroで生殖腺刺激ホルモンを添加し培養液中に産生されたestradiol-17β(E_2)の濃度を測定した.シロザケのGTH-I(FSH)とGTH-II(LH)の効果を比較したところ,GTH-IIはin vitroでのE_2産生に高い効果を示したが,GTH-Iは弱い効果しか示さなかった.それぞれのGTHに特異的な抗体を用いた免疫染色によっても,抗GTH-II抗体では下垂体主葉後部に明瞭な陽性反応が見られたのに対し,抗GTH-I抗体では反応は認められなかった.したがって,シロウオ(おそらく他のハゼ科魚も)GTH-Iの産生量がごく少ないか産生していない可能性がある.今後,遡上前の個体やハゼ科の他魚種を用いた実験が必要であろう. 卵巣を用い,E_2産生に重要な酵素であるアロマターゼ(P450arom)cDNAの全塩基配列を決定したところ,517残基のアミノ酸をコードした全長1996塩基からなっていた.一方,脳を含む頭部からは,全長1668塩基からなり500アミノ酸残基をコードする別のタイプのP450aromのcDNAが得られた.アミノ酸の相同性の比較から,これらはそれぞれ,硬骨魚類で知られているA-typeとB-typeのP450aromであることが明らかとなった.現在,それぞれの遺伝子を動物細胞で発現させ,おのおのの酵素の生化学的特性と生理学的な役割を明らかにしようとしている.
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