研究概要 |
平成15年度は,人工孵化し,飼育したクロマグロで,孵化後19日目までの仔稚魚期における,成長,核酸比(RNA/DNA比)とタンパク質含量の推移を,22,25,28℃の飼育水温別に,また個体別に明らかにした。孵化後19日までの成長は水温が高いほど速く,平均全長でそれぞれ7.9,12.2,14.6mmに達した。核酸比とタンパク質含量の変化については分析方法を確立した。 人工孵化しクロマグロ仔魚を飼育水の水温と塩分を変えて孵化後10日まで飼育し,成長と生残の違いを明らかにした。飼育水温は22,24,26,28,30℃の5段階とした。飼育水温が高いほど成長が速く,孵化後10日での平均全長は,それぞれ5.4,6.1,6.7,7.0,および7.3mmとなった。生残率は逆に水温が低いほど高く,それぞれ20.5,6.1,8.0,0.5,および0.9%であった。塩分を変えて飼育した結果では,30PSUの濃度で最も生残が良く,成長に塩分の違いによる差は見られなかった。 クロマグロ仔稚魚飼育における初期減耗の程度には,鰾の形成の成否が大きく影響すると考えられる。そこで,飼育条件として明暗の周期を変えて,鰾の最初の開鰾に及ぼす影響と成長を,クロマグロ,マサバ,マダイで調べて比較した。クロマグロ,マサバ,マダイともに日長が長い条件で成長が有意に良くなった。明暗の周期の違いは3種ともに最終的な開鰾の成否には影響しなかったが,暗条件が長いことが,最初の開鰾を早める結果となった。 クロマグロの初期減耗,特に浮上斃死による減耗に大きく関与すると考えられる皮膚粘液細胞の発育過程を明らかにした。また,浮上斃死による減耗がほとんど起こらないマサバでもその発育過程を観察し,クロマグロと比較した。クロマグロ仔魚では,孵化直後から皮膚に粘液細胞を多数有し,成長にともなって粘液細胞の種類とそれらの組成が異なってゆくことを明らかとした。これに対しマサバでは皮膚粘液細胞の数はクロマグロに比べて非常に少ない結果となった。したがって,粘液細胞の多少は浮上斃死が起こるか起こらないかを決定する要因であることが明らかとなった。平成15年度は,平成14年に近畿大学水産研究所で達成されたクロマグロの完全養殖(生活史1サイクルの飼育下での実現)を発展させるため,本研究の成果を応用してクロマグロ人工種苗の量産に取り組んだ。
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