魚類の普通筋と血合筋では、構成タンパク質の安定性が異なることが知られているが、知見はごく一部のタンパク質に限られている。本研究ではまず、これらの筋肉について、筋原繊維調節タンパク質の一つ、トロポミオシン(TM)の熱力学的性状の相違とアイソフォームとの関係を調べた。カツオ、サンマ、およびブリの血合筋、比較のために、それぞれの普通筋を併せてアセトン粉末とし1M KC1存在下の抽出、pH4.5における等電点沈殿、硫安分画(50-60%)を繰り返して、精製TMを得た。これらを、示差走査熱量計MicroCalVP-DSCを用いて熱分析(DSC)を行うとともに、2次元電気泳動分析に付し、アイソフォームの分離を試みた。他方、加熱変性に伴う変化について非変性条件下で電気泳動分析(native gel)を行った。DSC分析において、普通筋TMは1〜2つの吸熱ピークを示したのに対し、血合筋のものでは4〜5つのピークからなる複雑なパターンを示した。転移温度(Tm)は概して血合筋で高く、熱安定性の高さが示唆された。二次元電気泳動分析の結果、普通筋では1〜2個、血合筋では5〜6個のアイソフォームの存在が確認された。native gel電気泳動では、加熱過程においてTMの単量体や重合体が生じることが明らかとなった。一方、独特のゲル形成能を示すことで知られるスケトウダラとシログチにつき、普通筋のcDNAライブラリーからTMのcDNAをクローニングして、塩基配列を調べ、さらにアミノ酸配列を演繹した。両TMとも塩基配列、アミノ酸配列ともにほぼ同じで、高等脊椎動物ウサギの速筋TMのものとも相同性が96%程度と高かった。分子の重合に関わるN末端側の9残基や、190番目のCysはよく保存されていたが、魚種により異なるアミノ酸も数箇所認められ、熱安定性の相違に関与する可能性が示唆された。
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