高速遊泳能力を有するクロマグロにつき、普通筋トロポミオシシ(以下、TMと略記)の2つのアイソフォーム(α、β)の一次構造に検討を加えた。α型についてはcDNAの全塩基配列を確定し、アミノ酸配列を演繹した。一次構造においてはコイルドコイル構造の土台をなす7残基の繰り返し構造(とくに構造安定化に関わる疎水性アミノ酸)、およびN、C両末端の約10残基、190番自のCysは非常によく保存されているが、分子表面のアミノ酸、とくに27、83、135番目などに置換が多かった。 一次構造が演繹された6魚種(シログチ、スケトウダラ、クロマグロ、トラフグ、大西洋サケ、ゼブラフィッシュ)の普通筋および対照としてウサギ速筋からTMを精製し、示差走査熱量分析(DSC)および円二色性(CD)スペクトルの温度依存性を比較した。その結果、各魚種TMのDSCにおける遷移温度(Tm)には38.4〜48.9℃と大きな差が認められた。また、加熱・冷却後のrefoldingの度合いについても明確な差が認められ、シログチやスケトウダラのTMではほぼ完全にrefoldingされたが、クロマグロTMではその程度が低かった。この傾向はCDスペクトルによっても確認され、熱変性に伴う構造変化が主にαヘリックス構造の崩壊によるものであることが示された。魚種によるTMの熱安定性の相違は、主として上記のアミノ酸残基が形成する分子表面の構造安定性の違いを反映していることが示唆された。 このように、一次構造が非常に保守的なTMに熱安定性の差が魚種間で明確に認められたことから、筋原線維におけるthin filamentの構造安定性にも大きな差があることが示唆される。すでに、thick filamentの主体をなすミオシンの安定性にも大きな差があることが確立されているが、thin filamentも魚類筋肉の安定性や加工適性に関わっていることが本研究結果から推察された。
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