近年、水生動物に種々の遊離D型アミノ酸が検出されているが、量的に多いのはD-アラニンである。この点に着目し、D-アラニンの蓄積と代謝機構を明らかにする目的でD-アラニンを多く含むクルマエビを飼育し、脱皮間期におけるD-アラニンおよび遊離アミノ酸の変化明らかにするとともに、体内にD-アラニンが存在しないフグ類におけるアラニンラセマーゼ(ARase)の有無を調べようと考えた。 飼育クルマエビ筋肉のいずれの試料にもアラニン含量は4〜20μmol(組織1g中、以下同様)となり、そのうちの42〜47%がD-アラニンであったが、脱皮後の時間経過に伴う明瞭な変化は認められなかった。いずれの試料でもグリシン(87〜195μmol)が最も多く、無脊椎動物に多いといわれるタウリン、アラニン、アルギニンは概して少なかった。遊離アミノ酸の合計は225〜324μmolとなり、いずれも脱皮前に増加し、グルタミン、プロリン、アルギニンも同様の変動を示したが、グリシンは脱皮直後に増加し、その後徐々に減少した。 コモンフグ、クサフグ、ヒガンフグ、トラフグの肝臓の粗酵素液を用い、D-またはL-アラニンのいずれかを基質として、ARase活性の有無を調べたところ、いずれの試料でもL→D方向でD-Alaの生成は認められなかった。D→L方向では調べたすべての種でL-Alaの生成が認められ、クサフグが最も強く、次いでコモンフグとヒガンフグが同程度の強さを示し、トラフグが最も弱かった。卵巣についてはトラフグとクサフグを調べたが、トラフグは両方向で活性を示さず、クサフグはL→D方向でのみ活性を示した。以上の結果からD-Alaが存在しないフグ類にもARase活性が認められ、この酵素作用により体内に取り込まれたD-AlaをL-Alaに変換して利用していることが考えられる。
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