研究概要 |
魚類の中ではキチン分解活性の高いマダイを材料として、その胃のキチナーゼの酵素反応機構を調べた。最適pHは基質にグリコールキチンおよびN-アセチルキトオリゴ糖(GlcNAc_5)を角いた場合、前者ではpH2.5およびpH9.0であったが、後者ではpH2.5およびpH5.0と異なった。本酵素は長鎖の糖をよく分解し、2糖および3糖は分解しなかった。アロサミジンで阻害されること、反応生成物がβアノマー型であることなどからマダイ胃キチナーゼはファミリー18の糖質分解酵素と考えられる。 次いで、マダイ胃キチナーゼのcDNA配列の解析を行った。本酵素をコードするcDNAは1,428塩基であり、これから予測されるタンパク質のアミノ酸残基は476残基であった。得られた配列から相同性検索をした結果、ヒトおよびマウスの酸性キチナーゼ、ニワトリ胃および肝臓のキチン結合タンパクと高い相同性がみられた。また、マダイ胃キチナーゼのmRNAを用い、ノザン解析ならびにRT-PCR法によってマダイ成魚における各組織の発現状況を調べたところ、胃の他に肝臓、幽門垂および腸に発現がみられた。 さらに、マダイの発生に伴うキチナーゼの発現動態を免疫組織化学法によって調べた。孵化後2日目までは免疫陽性反応は観察されなかったが、孵化後3日目には腸に、24日目には胃が分化した個体は胃に、未分化の個体は腸に、46日目には胃のみに観察された。これらのことから、消化器系の発達に伴い孵化後20日目前後にキチナーゼの発現器官が腸から胃に移行したと考えられる。 以上の結果から、消化管に発現するキチナーゼはキチン質を含む餌料の消化の役割を果たすと考えられるが、肝臓のキチナーゼの役割については今後、検討の必要がある。
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