研究概要 |
本研究の目的は,水産分野におけるHACCP(Hazard Analysis Critical Control Point)を念頭において,免疫反応のブラウン運動を指標とした高感度かつ迅速な新しい微生物検出法を開発することである.昨年度は,フローサイトメトリーによる各種魚介類の菌数測定を試みるとともに,硝化細菌の免疫反応におけるブラウン運動の変化にづいて基礎的知見を得ることができた.本年度はこれに引き続き,ブラウン運動を指標とした硝化細菌およびサルモネラ属菌の特異的検出法の確立を試みた. まず,ラテックス粒子に固定化された抗-硝化細菌抗体を用いて,硝化細菌をモデルとしてその特異的検出を試みた.すなわち,硝化細菌と抗体ビーズを反応させ,この際生じるブラウン運動の変化をサブミクロン粒度分布計で測定し,それらの粒度分布を解析した.免疫反応後,菌体とビーズの凝集体のブラウン運動は小さくなり,これにより予想される菌体の全長よりも大きな値が得られた.これは抗原抗体反応により複数の菌体が抗体とともに凝集し,その結果粒子の全長が大きくなったためと考えられた. 次に,同様の方法でラテックス粒子に固定化された抗-サルモネラ属菌抗体を用いて,サルモネラ属菌の特異的検出を試みた.その結果,硝化細菌と同様に免疫反応後は凝集体の大きさが増加した.一方,大腸菌を対照試料とした場合,上記のような変化は認められなかった.したがって本法を用いることにより硝化細菌およびサルモネラ属菌を特異的に検出できることがわかった.なお,一検体当たりのブラウン運動解析所要時間は約6分であり.抗原抗体反応等の前処理を加えても2時間程度で菌体検出を行うことが可能であった.本研究で得られた知見は,サルモネラ属菌はじめとする食中毒菌に応用できる可能性があり,今後のHACCPに大いに貢献できるものと考えられる.
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