研究概要 |
魚肉中の筋原線維に結合しているセリンプロテアーゼ(MBSP)は、魚肉の利用加工はもとより、筋肉タンパク質の代謝にも密接に関連する興味深い酵素であるにもかかわらず、精製が非常に困難であることから研究は遅れている。 昨年度、コイより精製したMBSPのN末端アミノ酸配列からプライマーを設計し、コイMBSP遺伝子クローニングを行い、全一次構造を明らかにした。 本年度は昨年度得られた遺伝子情報を基に、まず、コイの各組織での本酵素mRNAの発現量を明らかにし、さらに本酵素の遺伝子構造を明らかにすることを目的とした。その結果、mRNAの発現量は全組織で発現していることがわかった。筋肉、心臓、目、脳では比較的少なく、卵巣、肝膵臓、鰓などが多いことがわかり、筋肉特有のものではなく、組織に広く分布していることがわかった。これまでの結果から、本酵素は非筋肉組織では細胞の形態を保つ細胞骨格の役割と何らかの関係があると考えられた。 コイMBSPのopen reading frameに相当する領域の遺伝子を解析した結果、ヒトトリプシンと比較してイントロンは短いものの、同数のエクソンから構成され、また、トリプシン型酵素に特有の3個の触媒残基(His,Asp,Ser)もそれぞれ同一のエクソン内に存在していることがわかった。今後、コイのトリプシン型酵素と比較することによりMBSPの進化過程が解明されるであろう。 次に、水産食品でよく用いられている海産魚のエソを用いて、MBPの性質や構造を明らかにすることを目的に行った。コイに比べ、海産魚中のMBSPは筋原線維からの抽出が非常に困難であることから、これまで、この研究はほとんど進展しなかった。我々は今回、エソMBSPのN末端アミノ酸配列は10残基(IVGGAEXVPY)を決定した。4残決目までは他のセリンプロテアーゼと同じであったが、他はコイMBSPや他起源のトリプシン型酵素とも異なっていた。SwissProt及びGenBankのデーターベースホモロジー検索をしたが、これまでわかっている酵素とはホモロジーが低いことから、エソMBSPは新奇なセリンプロテアーゼであると考えられた。今後、遺伝子クローニングによりエソMBSPの全一次構造の解明を行い、さらに分子生物学的手法(DNAプローブ及びモノクローナル抗体)により、魚類の生体内における本酵素の発現及び筋細胞における局在をタンパク質と遺伝子レベルで追求する予定である。
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