コラーゲンに対し比較的強い熱処理(高温、長時間)を加えると、各サブユニットのペプチド結合が切断され、ペプチドが生成することが知られている。本研究では、魚類コラーゲンの熱分解の機序を解明することを目的として、ニジマス、ハマチ、ヒラメの皮膚から抽出した酸可溶性コラーゲンを用いてコラーゲンの熱分解特性ならびに加熱により生成するペプチドの性状について調べた。 熱分解の様式としてSDS-PAGE上で再現性の良いバンドパターンを示す限定的な分解と連続的なパターンを示す非限定的な分解の2種類が存在することが分かった。酸性および中性条件で加熱した場合はそれぞれ主に前者および後者を示した。熱分解に対するpH影響について調べたところ、酸性域やアルカリ性域において分解が比較的顕著であり、pH5-7の条件では最も分解が起こりにくかった。熱分解に対する食塩または尿素の影響を調べた結果、これらの添加により分解が抑制されることが分かった。プロテアーゼインヒビターカクテルを添加して同様の実験を行なったところ、無添加に比べSDS-PAGEパターンはほとんど変化しなかったため内因性プロテアーゼが分解に関与している可能性は低いことが示唆された。ニジマスα1(I)鎖を用いて加熱により生成するペプチドのN末端アミノ酸分析を行ったところ、GlyやProがN末端アミノ酸として多く存在することが明らかになった。しかし、酵素的なN末端デブロッキング処理により、N末端の一部が熱分解と共にアセチル化またはホルミル化されることが示唆された。
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