研究概要 |
昨年度我々はゴニオトキシン(GTX)群等の11位に硫酸エステルを持つ麻痺性貝毒(PSP)成分がin vitroでグルタチオン(GSH)と反応してGS-STX複合体を形成すること、およびGS-STXをγGTPで消化すると分解物と考えられる複数の不安定な蛍光成分を与えることを確認した。この結果は貝が同様の機構でPSPを分解することを示唆する。ところで毒化したホタテガイのPSPをポストカラムHPLC法(Oshima,1995)で分析すると、しばしばGTX1にほぼ一致するretention timeを持つ未知の蛍光成分が認められる。無毒ホタテガイには本成分は認められないことから、我々は本成分がホタテガイ体内で上記の機構により生じたPSP分解物ではないかと考え、本年度以下の実験を行なった。まず本成分を毒化ホタテガイから単離して紫外部吸収およびマススペクトルを測定した結果、269nmおよび339nmに吸収を示し、163の分子量を持つことを確認した。次に毒化したホタテガイを部位別に分けて抽出し、単離した本成分をリフェレンスとして上記HPLC法で調べたところ、本成分が調べた全ての部位に分布すること、腎臓に特に高濃度で認められることが明らかとなった。無毒ホタテガイ各部位のホモジネート中でGTX2,3混合物、DS-STXおよびSTXをそれぞれインキュベートしたところ、腎臓や中腸腺、生殖腺等γGTP活性の高い部位でGS-STXの顕著な減少と、この減少に見合った量の本成分の生成が認められた。本成分はこれらのホモジネート中にGTX2,3混合物を加えた場合にも若干量生じた。これに対してSTXを添加した場合には、STXは全く減少せず、本成分も生じなかった。以上の結果は本成分が、ホタテガイの体内でGTX群からGS-STXを経て生じた分解産物であることを意味する。現在、本成分の構造を解析中である。
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