神経組織の凍結切片を試料として細胞内に存在する神経分泌顆粒の分子量プロファイルをマトリックス支援レーザー脱離イオン化時間飛行型質量分析計(MALDI-TOFMS)を用いて直接分析し、そこで得られた分子量を指標に神経ペプチドの探索をしていく方法論に基づき、アメリカザリガニの脳、accessory lobeから新規神経ペプチドを同定した。すなわち、accessory lobe切片のdirect MALDI-TOF MS分析において分子量1382を持つ分子イオンピークが強く観察された。この分子量を甲殻類由来ペプチドのデータベースに照らし合わせた結果、ヒットしてこなかったので新規ペプチドと判定した。次に、脳からの抽出物を2段階のHPLCに付し、分子量1382のペプチドを高度に純化した。この精製標品は、ペプチドシークエンサーおよびQ-Tof MSを用いたMS/MS分析結果から、カルボキシ末端にアミド構造を持つ12残基のペプチド(GYRKPPFNGSIFamide)であると決定した。このペプチドの抗特異抗体を調整し、免疫組織化学的手法により脳内の分布を調査したところ、olfactory lobe cellsと呼ばれる部位が染色された。また、マイクロダイセクションした細胞群を用いたdirect MALDI-TOF MS分析では分子量1382のペプチドのイオンピークが観察された。これらの結果はolfactory lobe cellsがGYRKPPFNGS IFamideの主な産生部位であることを示唆している。一方、アメリカザリガニのホルモンの作用機構を解明する目的で、Gタンパク質供役型受容体(GPCR)のクローニングを試みた。ザリガニの肝膵臓から372残基から成り7個の膜貫通ドメインをもつタンパク質の遺伝子がクローニングされた。このGPCR様タンパク質は肝膵臓にて強く発現し、脳や筋肉中での発現は弱いものと判明した。
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