組織切片を用いたマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MADLI-TOF MS)分析では、細胞内分泌顆粒の内容物が選択的に観察される、そこで得られた分子量をデータベースに照合し構造未知の物質と判断された場合、以後観察された分子量を指標に単離・精製することで新規情報伝達物質を同定することが可能となった。更に、分子生物学的手法による前駆体構造の解析およびLC-MS(MS/MS)分析によるプロセッシング部位や翻訳後修飾の解析を組み合わせた一連の研究法を「Topological Mass Spectrometry Analysis」と名付け、タンパク質・ペプチド性情報伝達物質の新しい探索法として提唱した。更に、レーザーマイクロダイセクション装置によって各種細胞群を摘出しdirect MALDI-TOF MS分析することによって、神経ペプチドの局在をより詳細なmass spectrometric morphologyとして理解できるようになった。本研究では、アメリカザリガニの脳においてorcokinin関連ペプチド、crustacean-SIFamide、およびタキキニン関連ペプチドの同定、プロセッシング様式および局在を明らかにした。アメリカザリガニでは第一触角上の感覚子を含むolfactory receptor neuronが匂いを感じて、脳にあるolfactory lobeに直接情報を入力している。Ventral lateral cellsはその情報をaccessory lobeに受け渡すinter neuronとして知られている。Olfactory lobe cellsはそれら情報を受けて眼柄にある前大脳に出力を担う投射ニューロンであると考えられている。従って、ventral lateral cellsで産生されるdecapod tachykinin関連ペプチドは、accessory lobe内の情報処理を行う際にneuromodulatorとして働き、そしてolfactory lobe cellsで産生されるcrustacean-SIFamideは、眼柄内にある情報処理機構あるいは眼柄ホルモンの分泌調節に関与していると考えられる。また、Topological Mass Spectrometry Analysisは魚類、昆虫等の情報伝達物質の解析に応用し、多くの成果を挙げている。
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