本年度は(1)放牧養豚、(2)山地酪農、(3)イネ発酵粗飼料を利用した耕畜連携、の3事例を対象とした循環的・飼料自給的畜産の調査、および酪農における環境負荷調査を行うとともに、課題に即した関係資料の収集を行い、最終年度として研究成果報告書の作成を行った。調査研究を通じて得られた知見と成果は大略以下のとおりである。 (1)放牧養豚に関する調査 長野県小谷村およびJA大北において、山地と水田転作地を活用した放牧養豚の調査を行った結果、この農業形態が未利用農林地の再利用とともに、高齢化のすすんだ山間地域農業と景観の維持にとっても合理的なものであることが明らかになった。また、JAのマーケテイング(ブランド化)戦略が放牧養豚を支えていることが明らかになった。 (2)山地酪農に関する調査 岩手県田野畑村において山地酪農に取り組む農家調査を行った結果、この農業形態が山林伐採跡地を牛の生理と行動を活かして草地化し、放牧酪農を行うもので、自給粗飼料の確保とともに、山地の畜産的利用においても合理的なものであることが明らかになった。また、山地酪農における自然放牧を強調して、牛乳のブランド化をはかり、経酪農営を支えている実態が明らかにされた。技術的には補助飼料の給与方法に問題がある。 (3)イネ発酵粗飼料を利用した耕畜連携に関する調査 埼玉県熊谷市および妻沼町において調査を行った結果、現在の助成体系のもとでは、水田転作作物として耕種農家に所得を補償し、酪農の粗飼料としてTDNおよび価格面で十分使用可能であることが明らかになった。ただし技術的には、飼料イネの収量性、穀実の消化などに問題がある。 (4)酪農における環境負荷調査 北海道中標津町および別海町において、メガ・ファームと呼ばれる大規模酪農の調査を行った結果、糞尿処理に問題があり、屋根付き堆肥舎の整備にもかかわらず、周辺環境に負荷を与えていることが明らかになった。また、サケ・マス養殖協会と農業試験場から、糞尿の河川への流入の実態と対策について聞き取り調査を行った。 (5)過去3カ年に行った調査事例のうち、自然循環的畜産の事例として、(1)草地放牧酪農、(2)集約放牧酪農、(3)山地酪農、(4)牧野放牧型肉牛経営、(5)放牧養豚、(6)イネ発酵粗飼料、(7)里地放牧を活用した未利用農林地対策、の内容と特徴点を整理し、自然循環型畜産の意義について総合的考察を行った。
|