本年度は、中国とミャンマーの稲作を事例に農業的資源環境条件を考慮した持続的稲作の展開方向について分析を行った。中国の黒竜江省では1980年代半ば以降日本の寒冷地稲作技術の導入を契機に米生産が急増したが、同省各地区ごとの気象条件や土地条件、市場条件からの分析では、稲作農家の市況反応は高いものの特に水資源の制約のため米生産が近年ほぼピークに達しており、これまでの稲作の量的拡大から同省の気象条件を利用した有機米等の市場評価の高い良質米生産へ転換を図るべきであることを明らかにした。中国東北地域で栽培されているジャポニカ米は日本の米市場でも評価が高く、WTO体制下でその輸入増加が予想されているが、気象・土地条件からその生産拡大の余地が限られていること、中国国内でもジャポニカ米の需要が堅調であることより、日本への輸出余力は限られていることが予測された。 ミャンマーにおいては、政府の積極的な灌漑投資を中心に米増産が図られているが、最近の米単収の伸び悩みのため米需給は逼迫化している。ヤンゴン市近郊のレグ灌漑区での農村調査によると、米単収についての化学肥料と労働力の弾力性が比較的高く、これらの投入要素の増加により米単収が上昇する可能性が高いことが確認された。ミャンマーのデルタ地帯においては、気象・土地条件の制約よりも化学肥料産業の振興や農村労働力の組織化等の社会経済条件の整備が米生産拡大にとってより重要であることが確認された。
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