日本国内で基礎資料の補足調査を実施し、イギリスで収集した資料の整理・分析を継続した。 田園アクセス権と共通の性格を有する入浜権に関する資料を、入浜権運動が展開された兵庫県を対象に行った。兵庫県立図書館で関連資料を収集するとともに、入浜権運動を担った組織の責任者を訪問し、情報の補足を行った。また都市近郊に立地し、エコツールズムの可能性のある秦野市で、関連調査を実施した。 本年度の主な作業・知見は以下の如くである。 (1)イギリスにおける田園アクセス運動をリードしてきた、フットパス保全協会(現、オープン・スペース協会)の機関誌の整理と分析を行った。 (2)イギリスで最も古いアメニティ団体である同協会は、大都市部の入会地を開発から守ることを主眼として組織された。入会地を保全するために「協会」が採用した方法は、囲い込みに反対する訴訟を提起することだったが、「協会」の方針には以下のような特徴があった。(1)入会地保全の手法として買収策を採用することに終始批判的だった点、(2)入会権者を代行して、協会が訴訟を実質的に提起・遂行していったこと、(3)訴訟で争われたのはまず入会権者の慣行的権利であったが、同時に公衆一般(とりわけ入会地近隣の居住者)の入会地利用の実態についても重大な関心が払われたこと、である。 (3)入会地への公的アクセス権の根拠づけについて協会は2面作戦をとった。第一は、アクセス権が古くからの慣行として持続されてきた点を強調した。第二は、産業化・都市化が進行した現在、公衆のレクリエーション空間として入会地が極めて貴重な役割を果たしている点を強調した。その意味で、協会の入会地保全の論理は、農業上の意義よりも公共のレクリエーション空間としての意義を前面に押し出したものとなっていった。
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