本研究は、水利施設の維持管理と水利調整の担当者として農業集落を位置づけ、その農業集落が維持管理しやすく水利調整しやすいハード(農業基盤整備)、ソフト(農地・水の水利調整)のあり方を検討するというものである。また、本研究の特色は、農業経済学と農業工学の連携により、文理融合型の総合研究を目指していることにある。解明された諸点と今後の課題は次の通りである。 1)農業集落レベルの意思決定を、構成員間のパワー関係に着目しながら集団的意思決定の問題として定式化した。このとき外部支援者(水利型土地改良区)の介在が不可欠なことを指摘した。 2)宮川用水土地改良区(三重県)での現地調査にもとづいて、末端水路の維持管理と水利調整の現状を明らかにし、ハード、ソフト両面にわたる具体的な解決手法を提案した。 3)ハード面においては巨大区画水田整備による末端水利施設の絶対的削減を行うことが必要であるが、それだけでは水路密度の低減に結びつかず、ソフト面における換地処分と耕作地調整が不可欠なことを実態調査ならびにモデル分析から解明した。 4)現地調査にもとづきながら、ソフト面における耕作地調整の手法としてGIS(地図情報システム)を使った農地・水管理システムの確立を提唱した。また、その担当者として水利型土地改良区が最適であることも示した。 5)農業用水の持つ地域用水としての多面的機能については、農業水利施設が有する公共性という観点から、農業者のみならず地方自治体ならびに地域住民の費用負担、労務分担の下で実現すべき課題であるとして、その合意形成の可能性を滋賀県高月町雨森地区の事例について検討した。 最後に、今後の課題として、集団的合意形成に関する理論モデルの構築が急務であることを指摘できる。
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